旅する珈琲 2
札幌南7条西19条ぐらいだっただろうか、その珈琲屋は古い2階建ての建物をお店にしていた。札幌に着いて食べるための仕事を探さなくてはと、張り紙がし ているわけでもないのに飛び込んだお店がそのコーヒー屋、札幌可否茶館倶楽部。その店の印象は今でも強烈に残っている。入り口を入ると右側に焙煎室と豆の 販売コーナーがあり、入ってすぐの正面には水だしコーヒーのセット。左側に客席が広がり道路際の窓は上下に動く木製のスライド窓。右おくには四本足のステ レオが置いてありレコードを変えに行くカウンターマンの動きも楽しみのひとつだった。オーダーしたコーヒーは、陶器のポットに入ってサービスされ、簡単に 言えば紅茶と同じスタイル。札幌に暮らすまでの2年間、東京で見てきた喫茶店の空気とはまったく違うものを感じた。東京は、梅雨入りの頃、6月の札幌は乾 いた空気と、でかい空が広がり大通り公園にはライラックの香りが流れ、最高の季節が始まる。この店が札幌のコーヒー文化を築いた店の一つであることを知っ たのは、最近のこと、そしてその店の始まりに斉藤さんがいたことを知ったのもかなり後になる。すでにこの店は建物さえもなくなってしまってはいるが、俺の 中では今でも札幌で一番好きな店。北の町のコーヒーの物語は今も那須野が原で続いてる。
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